【衝撃事件の核心】「首相を呼べ!」 実弟が政務調査費めぐり架空請求疑惑 千葉・船橋市議会は百条委設置、薄氷の否決に憶測呼ぶ…

【衝撃事件の核心】

「首相を呼べ!」 実弟政務調査費めぐり架空請求疑惑 千葉・船橋市議会は百条委設置、薄氷の否決に憶測呼ぶ…

2012.10.8 12:00 衝撃事件の核心
 野田佳彦首相の実弟である千葉県船橋市議の野田剛彦氏(民主)が、政務調査費約130万円について架空請求との指摘を受け返還した問題。同市議会では、地方自治法百条に基づく調査のための特別委員会(百条委)設置が発議され、賛否同数の末、議長裁決で否決された。しかし、この決着には議会内外から不満の声が漏れ、憶測が飛び交っている。(江田隆一)

 

賛否同数
 
 「首相を証人喚問しろ!」
 この夏、船橋市議の間で過激な言葉が交わされていた。実弟の野田剛彦市議の疑惑をてこに国政を揺さぶることへの興奮があった。
 きっかけは、産経新聞の7月18日付の記事「首相実弟の市議 調査費130万 不正受給か 秘書企業から架空領収書の疑い」だ。
 野田市議は、平成18年から22年にかけて市内の2つの企業に「市民意識調査」や「政策宣伝資料作成」を発注、2社が発行した計約130万円分の領収書をもとに政務調査費を市から受け取っていた。首相の政策秘書が2社の取締役を務めており、うち1社は活動実績に乏しかった。
 報道以後、市議会では「実態を調べる必要がある」との意見が噴出。野田市議は疑惑を否定しつつも「資料が残っていない。疑いを晴らすことができない」などとして、調査費を返還し、幕引きを図ろうとした。

 

記名投票は48年ぶり
 
 しかし、共産党が「議会として実態を調査する必要がある」として百条委設置を発議。9月定例議会中の27日に採決されることになった。この日、投票を記名投票にする動議も出され、認められた。
 記名投票では、議員が賛成なら白い札、反対なら青い札を議場正面の投票箱に順番に入れていく。同市議会では、非常勤特別職報酬案件を可決した昭和39年以来、48年ぶりだ。議会事務局職員はもちろん、議員もすべて入れ替わっており、全員が初めての経験だった。
 野田氏と佐藤新三郎議長を除く48人が投票に臨んだ。
 共産党(7人)と市民社会ネット(4人)のほか、保守系の自由市政会(14人)が賛成することを事前に決めていた。しかし同会のうち4人が退席。佐藤議長も同会所属のため賛成は9人にとどまったが、みんなの党(5人)のうち2人が「白票」を投じたことで賛成は22となった。
 一方、公明党(10人)、保守系の凛(りん)(6人)、みんなの党の残り3人、野田氏を除く民主党の2人と無所属1人が「青票」で反対も22となった。
 だれが賛成し、反対したのか、すべてリアルタイムで公開される投票方式。議員の1人は「札を傍聴席に掲げる(国会議員の)気持が分かった」と興奮気味に話した。
 賛否同数のため裁決を委ねられた佐藤議長は、会派の取り決めに反して否決した。「議員が議員を追い詰めるのは、議会になじまない」というのがその理由だ。
 これに先立ち、補正予算案の採決などもあったため、開会から6時間近くがたっていた。大山鳴動して、議場外から「政務調査費の使い道を調査されると困る議員がいるのではないか」といった冷めた声が漏れた。

 

次期市長選の思惑も…
 
 異例の経過をたどったものの、多くの議員は「記名投票で各議員の賛成、反対をはっきり伝えることができたのはプラスだった」と振り返る。
 しかし、市内の政界関係者は「野田議員を来年の市長選に担ごうという動きと、これをつぶそうという動きもあった。そんな思惑が働いた」結果、賛否同数による否決に落ち着いたと指摘する。
 また「首相を市議会に呼ぶべきだ」との声も挙がっていたことから、ある議員は「民主党代表選や第3次野田内閣のスタートという微妙な時期と重なった。中央からの働きかけもあっただろう」といぶかる。
 議会としてはこの問題に決着をつけたことになるが、全員が納得しているわけではない。
 自由市政会の中村実議員は「野田首相は疑惑が報じられたあと『野田議員が市議会なり市民にきちっと説明すべきこと』と参院で答弁しているが、実現しなかったのは残念」と話す。
 百条委設置を提案した共産党の佐藤重雄議員は「今後は市民の側からの究明機運を高めていく」と話しており、住民監査請求などで問題が再燃する可能性もある。