【売国民主党「政治と金・女・暴力」スキャンダル】小沢氏の「共謀」なぜ認めぬのか

売国民主党「政治と金・女・暴力」スキャンダル】
【正論】

最高検検事、筑波大学名誉教授 土本武司 小沢氏の「共謀」なぜ認めぬのか

2012.5.16 03:24 正論
 小沢一郎民主党元代表資金管理団体陸山会」の土地購入をめぐり、政治資金規正法違反(虚偽記載)の罪で強制起訴された小沢元代表に無罪を言い渡した1審の東京地裁判決に対して、検察官役の指定弁護士側が控訴した。
≪強制起訴めぐる争点は3つ≫
 一般市民による告発を端緒としたこの事件は、その後、検察官による2度の不起訴処分(嫌疑不十分)→検察審査会による2度の起訴相当議決→指定弁護士による起訴→無罪判決→控訴申し立てという、特異な経緯をたどった。
 起訴事実は、(1)平成16年に陸山会が小沢元代表から借り入れた4億円を、同年分の政治資金収支報告書に収入として記載しなかった(2)土地取得費3億余円を16年分ではなく17年分の支出として虚偽の記入をした-というものであり、衆院議員の石川知裕被告ら元秘書3人が実行行為者として、元代表が共謀者として起訴された。
 実行行為者3被告は有罪とされたものの、小沢元代表は訴訟の前提事実を含めて徹底的に争った。その争点は次の3つである。
 第1は起訴の有効性である。弁護側は、検察官が起訴議決に先立つ再捜査で違法・不当な取り調べによる虚偽の内容の供述調書と供述経過に関する虚偽の捜査報告書を作成するなどして、起訴議決に至ったものであるから、議決は無効であり、それに基づく起訴は棄却されるべきだと主張した。
 第2は、石川被告らによって虚偽記入ないしは不記載がなされたのかどうか、第3は、それが肯定される場合、小沢元代表がその犯意を持ち、石川被告らと共謀したといえるのか否か、である。
≪事実認定しながらの無罪≫
 第1点で、判決は「検察官が任意性に疑いのある供述調書や事実に反する内容の捜査報告書を作成し、検察審査会に送付したとしても、検察審査会における審査手続きに違法性があるとはいえない」として弁護側主張を退けた。
 この判断は正当である。証拠の内容に瑕疵(かし)があることと、手続きに瑕疵があることとは別個の問題であり、当該証拠の証拠能力や証明力に影響することはあっても、起訴の議決や起訴の効力を否定するのは筋違いだからである。
 第2の点についても、判決は、収支報告書への不記載・虚偽記入も、そうするに至った動機・目的も明確に認めた。
 だが、第3点については、理解しにくい理由で、小沢元代表の故意も、石川被告ら実行行為者との共謀も認定できないとした。
 判決は、実行行為者らが、小沢元代表から陸山会への現金4億円の貸し付けを隠すため、土地代金の支払時期をずらすなどの虚偽を収支報告書に記入したことと、元代表も4億円の不記載などの会計処理について報告を受け、了承していたことを認定している。にもかかわらず、その記載内容について、「元代表が違法と認識していなかった可能性がある」という理由で、共謀を認めなかった。
 しかし、指定弁護士の指摘のように、小沢元代表が土地購入に伴う銀行融資書類に署名していた事実などを踏まえれば、支払時期をずらせば違法になることを認識していなかったとは到底いえないはずである。判決が「収支報告書は一度も見ていない」との元代表の法廷証言に関し、「およそ信じられるものではない」「秘書から報告を受けたことは一切ないとの供述は信用性が乏しい」とまで判断しながら、故意、共謀を否定するのは不可解というほかない。
≪事実明らかにする控訴は当然≫
 そもそも、小沢元代表は共謀共同正犯理論における共謀者として罪責を問われた者である。この理論は、大審院時代に判例によって生まれ、自らは実行行為に出ない共犯者の中で主導的な者を、教唆犯、幇助(ほうじょ)犯にとどまらず正犯として処罰できる道を開いた。
 ここでいう「共謀」とは、2人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議であり、共謀者の一部の実行行為があれば、実行行為をしない者についても、共同正犯が成立するという考え方である。
 今回の判決で認定された事実関係に基づけば、小沢元代表に「共謀」が存在したとの判断が示されてもよかったのではないか。
 その意味で、検察官役の指定弁護士が、「判決には看過し難い事実誤認があり、控訴審で修正可能だ」として、控訴に及んだのは宜(むべ)なるかなと思われる。
 ただし、共謀共同正犯も、正犯である以上、他人の犯行を認識ないし傍観するだけではなく、自己の犯罪を遂行するという実質が必要である。本件では、小沢元代表について、そうした主体性や積極性の立証が不十分だと判断された可能性もあり、2審の高裁の判断が注目されるところである。
 そして、強制起訴の制度の狙いが、有罪を求めるだけではなく、公開の法廷で事実を明らかにする点にあるとすれば、本件の起訴とそれに続く控訴は、そのこと自体に意義があったといえよう。(つちもと たけし)
 
 
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